ああ、そうだ。
彼は、この人は、動物並みの、いいや。

動物以上の身体能力を秘めている人なのだから。



「…嫌では、ないのか」


「え…?」


「俺にこうされて、気分を害したりしないんだな」



なんにも、そんな気すら起きない。

ずっとずっと居たいくらいだと、前も思った。


あのときはものの5秒ほど。


でも今は、自分は抱きしめられているんだと感じられる。



「…はい」



私の返事を聞いて、身体はゆっくり離れてしまう。

名残惜しさをそこまで感じなかったのは、思った以上に心が満たされてしまったから。


身体は離れてしまっても彼は私を恍惚(こうこつ)と瞬きもせず見入っているからだ。



「きみのそういうところに、俺はいつも助けられる」



ふかくは踏み込まない。

多少気になる部分があったとしても、明日になっても気になっていることかどうかを立ち止まって考える。


なんとなく話しづらそうだったなら、私もそこまでを受け入れる。