「あなたにこの世は…、どう映りましたか」
「……変わらないと思ったよ。いい意味でも、悪い意味でも」
あんなにも見るもの見るものすべてに口をポカンと開けていたというのに。
車も、建物も、人が身に付けているものに対しても。
驚いて、関心して、興味津々に口数を増やしていたというのに。
「だが……すごく、守られていると思う。この世は」
現在この国に、戦争はありません。
戦うための兵士ではなく、国を守るための兵士がいます。
「また、きみに会えてよかった」
手にした針樅色(はりもみいろ)がポトリと地面に落ちる。
ゆっくり伸びてきた手が、私の身体を隙間なく抱き寄せてくる。
息を吸って、吐く。
だれもができる生物の基本動作さえ、私には難関として立ちはだかった。
「ハル、さま」
「こんな森のなかにひとりは、危ないぞ」
「……動物は、出ないです。ここまでは下ってこないですから」
「…なにも野生動物だけとは限らない」