これじゃあ私が教えられているみたいだ。

そんなにも緊張することはない、落ち着いて素直に話せばいいんだよ───と。


その普通が、私には慣れていないことだというのに。



「このだし巻き、うまいな」


「和食の基本はお出汁の取り方だって、料理長さんもいつも言っています」


「…一咲は、料理は得意?」


「あ、私は……ぜんぜんで。ダメですよね、あと1年もないのに…」



訪れた静寂に、ハッと視線を誤魔化す。


するとお弁当の蓋を閉めてしまったハル様。

「あとで食べる」と言って、今は私との会話を優先させたいようだった。



「俺は、きみには幸せになってもらわなければ困る」


「……しあわせ、」


「には、見えないんだどうしたって」



怯えている。
怖がっている。

私は工藤 音也という人間に、心の声さえも奪われている。