「…しっかり掴まっていて」



そう言って、またゆっくりと明かりの灯る宿たちを抜けていく。


たくましい腕、甘くかすれた声。

特殊な体質抜きにして、女の自分とは似ても似つかない安心があった。


見慣れた光と門が見えてきたところで、私はそっとハル様の腕から地面に降り立った。



「どうしてこんなに腫れているの」



そこでずっと忘れていたものを優しい音色で指摘され、また戻ってきてしまった痛みと悲しさ。

叩かれた左頬に触れてみると、いまだに熱を持っていた。



「は、ハチに……刺されました」


「ずいぶんと乱暴で優しくない蜂なんだな」



すぐに強気に返されて、うっと詰まる。

皮肉いっぱいな言葉が、私の心の渦をわざわざ表面に表してくれたみたいだったから。



「ここは…自由恋愛が一般的だと聞いた」



なにも言っていないのに。
蜂と説明されて誰を想像したんだろう。

“ここは”と、なんとか選んだような単語だった。