「…すまない、嫌なことを思い出させてしまったよな。俺が父親の話なんかしたせいで」


「いえ…、ハル様のこと、少しでも知りたかったんです」



教えてほしい、どんなことでも。

あなたはきっと、ひとりで抱え込むことが多い人なんだと思うから。



「俺はずっと…、死というものを昔から人一倍恐れてた」


「……死、」


「秀才だの優等生だのと言われていたけれど、実際は誰よりも弱くて、…なにもできなかった情けない男だよ」



徹底された礼儀。
なにがあっても動じない芯の通った強さ。

そんな人が“弱く”、“情けない”だなんて。



「そんなこと…ない」



思わずしがみつく。


自分には旦那様となる人がいるのに、
いったい何をしているの───、

湿った着物が、涙の跡を乾かす夜風が、静寂と誘惑をもたらしてくる。