「厳しいことには慣れているから平気だ。そんなことより俺は、一咲が見えないことのほうが怖い」



逆だ。

ずっと見ているのは私のほうなのに、見失うと怖いだなんて。


私が呼ぶと返事をしてくれて、私が目を向けると必ず同じものが合う。



「ハル様にも怖いものがあるんですね」


「そりゃあるに決まってるさ。俺だって……いまは少し変わっているかもしれないが、人間だからな」


「……はい」



あなたは人間です。

ちょっとだけ人より足が速くて、ちょっとだけ人より力持ちで、ちょっとだけ大食い。

ただそれだけのこと。



「…俺は昔から泣き虫で、母親が少し居なくなるだけで泣いていたような奴だった」



きっと彼は自分が記憶喪失だということを忘れている。

語られる昔話を、ほのかな街灯に照らされた道で聞き入った。