「あ、ひとつだけ俺が勧めたい宿があった」
「…どこ、ですか…?」
「華月苑という、とても可愛らしい子が水やりをしている庭園のある宿なんだ」
どうかな?と、幼い子供を扱うみたく下手(したて)に覗き込まれる。
そこにあなたがいるなら、行ってみてもいいかもしれない。
私だけだったら絶対に行きたくないけれど、あなたさえいれば。
「…そこで、いいです」
哀愁と情緒漂うライトアップに迎えられる、門から正面玄関。
夜になるといっそう輝きとオーラを放ち、このエリアいちばんと言われながらも、隠れ家のようでもある宿。
芸能人を始めとした、作家や政治家までもが訪れる歴史ある3階建ての老舗旅館。
「ハル様は…、お仕事…」
「うん。俺も怒られるかもしれない」
ごめんなさい、と肩をすぼめる。
初日で私以上の働きと成果を上げているにも関わらず、私のせいで迷惑をかけてしまった。