「…まっくら……」
華月苑を出た頃はすでに太陽が暮れかかっていたため、太陽が月に変わった現在。
濡れたまま、着替えてすらいない私を誘い入れてくれたのは、メイン通りから外れた路地裏たち。
この細い道を抜ければ、どこか知らない場所に行くことができるんじゃないか。
このままいっそのこと、私はあの家に捨てられたかったのだ。
「かえ……らなくちゃ、」
なにをしているの。
なにを馬鹿なことを。
着物の貼り付きが湿っている程度に変わってから、身体だけじゃなく頭さえも冷えてきた。
ぶるるっ。
身震いを何度かすると、おなじくらい涙が込み上げる。
「───こんな場所に女の子ひとりは危ないな」
「っ……!」
小さな街灯の下。
とぼとぼ足を進めて、裏路地にしか聞こえない生活音に落ち着いた気になっていると。
息を切らしながらも背後から掴まれた手によって、とうとう捕獲。