じり、じり。
私が下がれば下がるぶん、追いやってくるように詰められる間隔。
肌に貼り付いた着物ばかりを追ってくる目は、じっくりと品定めするかのごとく、どこか怪しげ。
「す、すぐ着替えて参ります…、ので」
「ふうん。思っていたより悪くない」
「え…?───っ!」
背中が壁についたのが先か、伸びてきた両手に囲われたのが先か。
別館は特別間なこともあって、通る人間たちも限られてくる。
お客様はお偉い方、従業員は許された者だけ。
今日はお偉い方が宿泊しているのだけれど、すでに宴会場に移動していることが伺えた静けさが広がっていた。
「うれしいよ。ここまで育ってくれて」
「あ…の、」
「やっぱり愛美とは違うが、目を閉じさえすれば問題ないからな」
「…や…、」
タンッ。
手だけじゃなく、今度は足。
私の両足のあいだ、婚約者である男の無駄に長い膝が強引にも股下を引き上げてくる。