でも、今は、今だけは。
もしかするとまたびしょ濡れになってしまうかもしれない。
……ので、とうぶん水やり禁止令は正解かも。
「あっ、透子さん」
「なにっ!!」
「私の代わりに水やり…、誰かに頼んでください」
「はいはい、わかったわよ!」
抱きしめられた。
言葉にすると、これだけ。
彼に抱きしめられただけ。
その数秒間のなかに詰め込まれていた力強さ、熱さ、優しくて胸を踊らせるもの。
ぜんぶぜんぶ、初めてのこと。
「一咲」
「っ!……おとや…さま、」
館内を濡らすまいと、せめて渡されたバスタオルで全身の水気を取りながら別館へ入ったとき。
シワひとつないシャツにベストを組み合わせた男によって、足を止められた。
「ん?またどうしてそんなに濡れているんだよ」
「み…、水を…、被ってしまって…」
「水?まったくお前ってやつは」