「……ごめんなさいーー」


『やっぱり私、五十嵐先生のこと苦手です』と、思わず口をついて言ってしまいそうになり、慌てて飲み込んだ。

危なかった。
さずがにこんなこと言ったら、ほかの科へ異動させられる。

せっかく外科のことが色々わかって楽しくなってきたというのに、そんなことになったら大変だ。

五十嵐先生の反応が気になって横目で彼のことを見てみると、私の言葉は耳には届いてなかったようで安堵する。


「そういえば、今度の歓迎会、矢田さんも参加するのか?」

「えっ、まぁ……その予定ですけど」


いきなり話を振られたかと思うと、今週末に予定されている歓迎会のことだった。

当科では、新任の先生が来られる度に歓迎会を開催している。
今や恒例行事とも言えるこの歓迎会。今年も開催するようで、ドクターたちが計画してくれている。

私たちのような事務員にも声を掛けてくれていて、都合が合えばいつも参加させてもらっていた。

でも、今年は五十嵐先生への歓迎会だよね?
行くの、やめようかな……。


「こういうの、苦手そうなのにな」

「苦手っていえば苦手です。あまりいい思い出もないし……」

「思い出?」


また余計なことを言ってしまったと、後悔。

私の言った『いい思い出はない』ということが気になったのか、その部分だけオウム返しされてしまった。