それでも抗がん剤の効果が見られたことに、少しだけ希望が持てた。


「それから、今週の土曜日のこと……な?」

「あ……はい」

「迎えに行くから、待ってて」


少しだけ声を潜めて言う五十嵐先生。以前話していた、彼とのデートのことだ。

彼にデートの提案をされてからしばらくして、食事に行くことが決まった。
でも、私の体調も考慮して遠出はしない。

入院中リハビリを継続して行っていたため両下肢筋力はある程度まで回復したけれど、まだ無理は禁物。
仕事も、しばらくお休み予定だ。

そして今週の土曜日、五十嵐先生も久しぶりに予定が入っていないようで、食事に行くことにしたのだ。
そのときに保留にしていたことの返事もしなければ。


ーー私は病気。

何度も何度も、この言葉が脳内を駆け巡った。


苦しくて、今すぐにでも逃げ出したくて。
うなされて、夜中何度も目覚めたことか。

それでも〝一緒に乗り越えよう〟と言ってくれる人がいる。

1週間、静かな病室でベッドの上で充分葛藤した。
ちゃんと、向き合わなきゃ。

決めるのは私。
1度切りの人生。後悔だけは、したくない。


「大丈夫か?」

「えっ。はい。大丈夫です。考え事してて」

「それならいい。なんか、仏頂面してたから心配になった」


それは……いつも私が五十嵐先生に対して思っていることよ。