そのときは母の言葉にピンとこなかったけれど、今ならちゃんと理解できる。
父と母は、きっと夫婦になるべくしてなったのだろう。

喧嘩しているところも、何度か目にした。
でも、お互いに信頼しているからこそ、なにがあっても乗り越えて行ける2人なのかな。


「葵、好きな人でもできた?」

「えっ。違うって。なんでそうなるのよ」

「ふーん……そう」


母の質問に、慌てて否定の言葉を口にする。
納得した様子の母だったけれど、多分なにか感じてる。

好きな人……というわけではないけれど、告白はされた。

それはとりあえず、黙っておくとして。

もしもこの先五十嵐先生と一生を過ごすことになるとしたら……。
父と母のような関係を築いていけたらいいかなって。

赤く染まる、春の空を眺めながらそう思ったーー。


* * *

「それじゃあ矢田。次は通院でな」


ベッドに腰かけて両親の迎えを待つ私に、五十嵐先生が話しかけてくれる。

2週間の抗がん剤治療が終了し、いよいよ退院だ。
継続して抗がん剤を投与した甲斐があってなのか、効果があったとのこと。

言われてみれば関節の痛みも初めに比べれば軽減し、手足共に動かしやすくなった。
それでもまだ、すぐに治療は止められない。

これからは週1回の通院で、治療を継続しなければならない。