「矢田、辛いか?」

「……いえ」

「大丈夫そうには見えないんだが」


五十嵐先生は心配そうな表情で、私の顔を覗き込む。


……うるさい。
なんなの? 五十嵐先生に……私の辛さがわかるっていうの?

24時間点滴に繋がれて、自由も利かない。

大切な髪の毛も失って、化粧っ気もないこの私の辛さが、周りにわかるの?


「矢田?」

「だから……大丈夫なんですって! もうほっといてください!!」


思い切り掛け布団をグーで叩きつけながら、今の思いを吐き出した。
怒りで「はぁ、はぁ」と呼吸も荒くなって、目から涙がこぼれ落ちる。

こんなの、八つ当たりだってわかってる。
でも、あなたになにがわかるの? なんの不自由もなく普通の生活が送れているクセに。

本当は、私だってメイクしたい。
髪も結んで、普通に仕事がしたい。

母の作った手料理を、家族で『美味しいね』って言いながら食べたいんだよ。

そんな簡単なことですら、今は叶わないんだ。


「矢田」

「……っ。もう……私に構わないでーー」


そう言ったとき、視界が少しだけ暗くなる。

そのまま五十嵐先生に抱きしめられてしまって、なにがなんだかわからなくなってしまう。


「矢田。わかってあげられなくてごめんな」

「えっ……?」


全身で感じる、五十嵐先生のぬくもり。