* * *

葵がいなくなってから1週間。
空っぽの病室は、やっぱり寂しく感じる。

葵は俺がプレゼントしたネックレスも指輪も外さずにいてくれたみだいだ。
それだけで、頬が緩む。

いや妻なんだから、当たり前か。


「あら。またここにいたんですね」


声のした方へ顔を向けると、ナースの大貫さんが立っていた。

俺のことを探していたのか、病室へ入ってくる。


「五十嵐先生。まだ、慣れませんか……?」

「そうですね……」


大貫さんの質問に対して、当たり障りのない返答をしておいた。

慣れるとか、慣れない問題ではないような。
特に、葵に対しては。

俺の最愛の妻である限り、ずっと俺の心の中に居続けるから。


「五十嵐先生。そういえばこれ、さっき矢田さんのご家族がお渡しに来たんですよ」


そう言いながら大貫さんは、ナース服のポケットから白い封筒を取り出すと俺に手渡した。

間違いなく俺宛だ。
差出人は……


「葵?」


封筒の裏側、左端に書かれている名前は『五十嵐葵』。

きっと、葵が生前に書いたものかもしれない。


「1人ひとり地道に書いていたんでしょうね。ご家族が、見つけたみたいで」

「そうか……ありがとう」


俺がお礼を言うと、大貫さんは病室から出て行ってしまった。

1人になり、呼吸を落ち着けてから、静かに封筒を開封する。