私が今目をむけるところは、明るい未来。
そして、今ある小さな幸せだ。


「泣かせてごめんね?」

「……俺、この後カンファなんだけど」

「えっ……嘘でしょ。泣いたの、バレない?」


そっと、匠真の瞼に触れる。
匠真はその手を取ると、今度は私の唇に優しくキスをした。

あぁ……。私、幸せ。
匠真の彼女になれて、本当によかった。

そして今の夢は――匠真のお嫁さんになること。

夢を叶えるために今できることは、治療を頑張ることだ。


「匠真。カンファの前に、点滴交換してね」

「あぁ。もちろん」


にっこり笑って嬉しそうな表情を見せた匠真は、手際よく点滴を交換してくれた。
それが終ると「時間だし、行くわ」と言って、早足で病室を出て行く。

……よかった。匠真に笑顔が戻って。
私が見たいのは、匠真の泣き顔なんかじゃない。

笑った顔だ。
そのことを、忘れてはいけない。


「よし。頑張るか」


みんな、未来に私がいることを信じてくれている。

だから、私も信じる。
みんなを。自分の未来を。

もう、泣いたりしない。
強くなって、病気にだって打ち勝ってみせる。


10月の秋空に、そう強く誓う。

そして予想外の出来事が起こったのは、その後すぐのことだった――。