匠真も森脇さんも、私にも未来があると信じて疑わない。

特に、森脇さんは。
結婚式や子どもの話を、よくしてくれる。

私だって、自分の未来を信じたい。

でも、この状況でそう思うことはできなかった。


「こんなことなら……」


『死んだ方がマシ』
そんな思いが、脳裏を過ってしまった。

悩むくらいなら、もういっそのこといなくなれば楽なのかも、って。


そんなことを考えていると、突然病室の扉が開いた。

入って来たのは、匠真だ。
新しい抗がん剤を、手に持っている。


「葵。点滴、交換しようか」

「……それ、もういらない」

「……どうした?」


こんな状況に、憤りを感じてしまう。


「匠真……私、もう疲れたの。治療……したくない」

「なんだ急に。治療続ければ、良くなって……」

「だからいらないの!!」


匠真が持ってきた抗がん剤が入った点滴バッグを、思い切り跳ね除けた。
ドサっと、鈍い音とともに点滴バッグが床に落ちる。

……もう、治療なんてしたくない。
疲れたんだよ、本当に。

いったい、いつまで続くの?
私、本当に良くなっているの?

なにもわからず、ただ病室に寝ているだけなら、もう……。


「楽になりたいよ……」