細身で黒いスーツをピシッと着こなし、長い髪はピッチリと後ろでひとつに束ねられている。


送れ髪ひとつない。


黒ぶちメガネをかけているその人は、見るからに厳しそうだったのだ。


「はじめまして、戸田です」


キッチリ90度のお辞儀をして、社員の顔をひとりひとり確認していく。


その中で久美へと視線が向けられた瞬間、戸田は険しい表情になった。


今井の不倫相手が久美だということは、もう知らされているらしい。


「じゃ、これからよろしく頼むよ」


上司はそう言うと、そそくさと部署を後にしたのだった。