その時。

「う…。ん?な、つき…?」

眠たい目を擦りながら、心春が身体を起こし、俺の名前を呼んだ。

「ったく。やっと起きたか?心春、お前はこの前言ったことちゃんと理解して…」

「……おかえり」

ギュッ。

俺の話の途中で、小さな腕を回し、抱きついてくる心春に俺は固まってしまう。

コイツ、これ素でやってんのか…?
それとも寝ぼけてんのか?

突然の行動に、さすがの俺も戸惑いを隠せない。

「おい、心春…」

「…ん?何?」

俺の声かけに反応を示してはいるが、うとうとしている心春の姿を見て、小さくため息をついた。

やっぱり、寝ぼけてる…よな?

最悪、夢だと思ってる可能性も無きにしもあらず。

「お前は…こんなことして、襲われても文句言えねーぞ?」

心春を抱きしめ返し、俺はボソッと本音を呟いた。

すると。

「夏希なら、いいよ?」

俺の声が届いていたのか、心春がそんな言葉を返すものだから、ドキドキと心臓が早鐘を打つ。

「ちょ、心春、今の…」

「スー…」

は?嘘、だろ?

俺の腕の中で、かすかに聞こえてきた規則正しい寝息にガクッと肩を落とした。

コイツ、散々人のことあおっといて。
マジ、ありえねー…。

でも、安心したような心春の寝顔を見ると、何も言えなくなる。


惚れた弱みだな、本当。
 

俺は、そのままあどけない表情で、眠る心春をソっと抱き抱え、自分のベッドへ運んだのだったーー…。