「そんな気を使ってもらわなくても大丈夫だよ。てか、他の席なんて空いてないんだしさ。ここ、2人くらい座れるからどうぞ」
机に出してあった教科書を鞄に直しながら、私と夏希に向かってニコッと笑顔を向ける向井くん。
「あ、うん…。ありがとう。夏希、せっかく席準備してくれたみたいだし…。それに春姫ちゃんの電車の時間もあと20分くらいだからお言葉に甘える?」
ここまでされて、無理に断るのも気が引けて私は曖昧な笑みを浮かべながら夏希に声をかけた。
「…そうだな。向井くん、悪いね」
「いえいえ。むしろ俺的には、斉田くんと話してみたかったから嬉しいよ」
「俺と?」
訝しげに夏希は向井くんを見据える。
初対面の相手からそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
「あぁ。なんたって斉田くん、学年1位の特待生様だからさ。俺も勉強の秘訣とか教えてもらいたいな〜って。てか、斉田くんくらい頭よかったらわざわざここの高校じゃなくてもよかったよね?あ、もしかして理由は峯さん?」
「…は?」
不機嫌そうな夏希の声色に私は徐々に表情が青ざめていく。
ヤバい…。
この感じ、夏希ってばガチギレ寸前なやつだ。