その瞬間、いつも温和な向井くんの顔つきが嫌そうに歪んだ気がして、私は小さく目を見張る。

「あ、えっと…。夏希。席探してたら偶然、同じクラスの子と会って話してたの。後ろの席の向井くんだよ」

「はじめまして。峯さんと同じクラスの向井奏汰です」

しかし、そう言って夏希に挨拶をする彼は普段の優しげな笑みを浮かべていて。

先程見たのは気の所為だったのではないかと思ってしまうほど。

「どうも。心春の幼なじみの斉田夏希です」

「知ってるよ。斉田くん、特待生でイケメンだって騒がれてるからさ」

なんだろう。向井くん、いつもと若干雰囲気が違う気がする…。

いつもとは違う彼の少し棘のある言い方が耳に残った。

「そうかな?別に俺としては普通にしてるだけなんだけどね。心春。彼、勉強してるみたいだし邪魔するのもよくないから他の席行こうか」

夏希がそう言ってくれて、内心ホッとする。

なんだか今日の向井くんとはあまり関わってはいけないような気がしたのだ。