こういうのが嫌だったから、昨日、夏希に意を決して話したというのに…。

心の中で小さくため息をつき、私はなるべく顔を見られないように窓側の方向を見つめた。

しばらくの我慢よ。
1週間もすれば、皆飽きてくれるはず。
というか、そろそろ戻らないと授業始まりますよ〜。

そんなことを考えながら、ぼんやりと自分の席から外の景色を見つめていた時。

「ねぇ、峯さんだっけ?隣のクラスにまで注目されちゃって大変だね」

ふいに後の席から声をかけられ、私はくるりと声をかけられた方向を振り返る。

声をかけてきたのは、私の後ろの席の男子生徒。

黒縁眼鏡をかけ、制服はきっちり校則通りに着こなしている。イケメンという部類ではないが、優しそうだし清潔感もあり、一部の女子に人気が出そうな感じだ。

確か名前は…。

「どうも。俺、向井。向井奏汰(かなた)。よろしくね、峯さん」

私が思い出すより先に、笑顔で名乗ってくれた彼。

「あ、はい…。峯心春です」

「知ってる、知ってる。斉田くんのおかげで一気に有名人だもんね、峯さん」

クスクスと面白いものでも見るかのように笑う向井くんに私は若干苦笑いを浮かべた。