沙奈にそれだけ伝え、素早く席をたった私は夏希が立っている教室の扉の前まで向かう。

「心春、急に来て悪いけど、ちょっと小銭貸してくれね?今月ピンチでさ。購買でパン買いたくて」

はい〜?誰かクラスの友達にでも借りなさいよね!

いやいや。落ち着くのよ、心春。
とりあえず、お金だけ渡して穏便にクラスに帰ってもらうのが1番でしょ?

「あ〜…そうなの。うん、いいよ〜…。500円あれば足りる?」

なるべく笑顔を保ちつつ、私はポケットに入れてあった小銭入れを取り出し、夏希に500円を手渡した。

「悪いな、心春。助かった!じゃあ、今日お前の家に帰しに行くからまたあとでな」

「…!?」

ニコッと爽やかに微笑んだヤツは、最後にとんでも無い言葉を残し、自分のクラスへ意気揚々と戻っていく。

あぁ…もう、私の高校生活終わったかもしれない。

自分の席へと戻りながら感じる周りの視線がとにかく痛くて。

私は徐々に血の気が引くのを感じていた。

そして、私が席についたのを見計らったかのように。

「ねぇねぇ…!峯さん。さっきの人知り合い?入学式で代表スピーチしてた人じゃない?」

「もしかして彼氏とか!?」

と、近くにいた女子たちが瞳をキラキラさせて尋ねてくる。