お母さんの誕生日に、手作りのアクセサリーを贈った。
それも、ちゃんと手渡しで。
今度は一人で実家に帰ったから、正直ものすごく怖かったし、直前までやめたくて仕方なかった。
喜んではもらえないだろうし、喜んでよなんて言うつもりもなかった。
案の定、困惑しきった顔だったけど、「ありがとう」とは言ってくれて。


「私、好きなものを諦められないの。哉人さんのことも、誰かにとってはガラクタとしか思えないものも。私にとっては、大切なものだから」


そんな宣言にも、頷いてくれた。

応援してもらえなくてもいい。
一番身近だった両親に対して、そう言い切る勇気はまだない。
きっと、これからも難しいと思う。


「……また帰ってきてね」


背中越しに言われて、泣きそうになるくらいだから。




・・・




何か変わったかというと、残念ながら、そんなに大きな変化はない。
どうしたって生活の為の仕事は嫌いだし、好きなことだけできたらどんなにいいだろうと未だに愚痴りたくもなる。
でも、ほんの少しだけ、姿勢良く歩けてる気もする。


(……お兄ちゃんの会社の近くまで来ちゃった)


やることを終えて、爽やかな気分で歩いていたら自然に――なんて、大嘘だ。
ずっと、哉人さんのことばかり考えていた。
会えないかな、どうしたら会えるかな……運命的に、ばったり会えないかなって。


(会いたいしかなかった)


そりゃ、足が向かうはずだ。
ここでぼんやり立ってたって、忙しいお兄ちゃんがふらりと降りてくることはないだろう。
顔が割れた今となっては、不審者にすらなれない。
なりたくもないけど。
帰ったら、お兄ちゃんに連絡しよう。
会って、今の気持ちを伝えたい。
好きですと、寂しいですと、それから――……。


「え、あれ、奥様じゃない? 」

「誰の奥様? 」

「あの噂のだよ。会議に乗り込んで、あいつを撃沈させたっていう……」


(……噂だけじゃなく、指名手配でもされてるくらい顔が割れてるのなんで……)


こうなったら、素通りできない。
挨拶しないのも感じ悪いし、逃げる意味もないし。
第一、内容はどうあれ、大まかに言って事実だ。


「あ、やっぱり奥様ですよね。ちょっと待ってください。今、お呼びしますので」

「え!? いえ、それはさすがに、仕事中ですし。たまたま通りがかっただけなので……」


しまった。
ちょうど終業時間。
珍獣を一目見ようと、人がわらわら集まってきた。


「奥様なら大丈夫ですよ。寧ろ、お帰しした方が怒られそうです」

「そんなこと……あの、本当に……」


(いやいやいや、待って……お願い、待って)


エレベータを降りてから、エントランスを通り抜けた人たちが、私目掛けて一直線なのなんで!?

誰かが呼びに行くまでもない。
騒ぎになってることが、あれよと言う間に上の階まで伝わって。
降りてきてくれたお兄ちゃんが群衆を掻き分け――やっと中心にいる私を見つけた時には、顔を見るなり大爆笑されてしまった。