深田に手を引かれながら、深田の家への道を歩く。
私も深田も、一言も発さない。
見慣れた深田の家が見えてくると、深田は険しい顔で立ち止まった。
その視線の先には、深田の家の前に一人佇む少女の姿。
「あっ、白澄!」
少女は深田を見るなり明るい表情で駆け寄ってきた。
「………誰、その女」
そして、私を見るなり不機嫌そうな声で呟いた。
「おい、何回言ったらわかる。もう来るなと言ったはずだ」
今までに聞いたことのないような、そんな低い声が耳をついた。
「深田、彼女?」
「違う。こんな女、彼女なんかじゃない。もう何度も来るなと言っている」
私が問いかけると深田は同じく低い声で答える。
「ちょっと、白澄、そんな女に気ぃ使う必要ないよ? 恣羅、彼女でしょ? 恣羅のほうがずっと、ずぅーっと可愛いじゃん」
少女―――恣羅は勝ち誇ったような顔で甘く訴える。
「帰れ、恣羅。もうお前との関係を続ける気はないと言っているだろう」
“もう”ということは、前は何かしらの関係があったのだろう。
「深田、私帰るよ?」
「だめ。今日は花綵のために………っ。とにかくお前は帰れ、恣羅」
「ねぇ、白澄! なんでそんな女なんかに構うのっ? 白澄の彼女は恣羅でしょ!?」
「花綵のこと“そんな女”呼ばわりする時点で論外。消えろ」
「深田、私はいいから」
「……今は、恣羅といたくない。俺は、花綵といたい」
今までに何度か深田の家に来たことがあるが、この恣羅という少女に会ったのは今日が初めてだった。
「………白澄がそこまで言うなら。また来る」
恣羅は突然、しおらしく言った。
帰るのかと動かした足は、私の方へと向かってきた。
すれ違いざまに足を踏まれる。
「いい? 白澄は恣羅のだから。今ちょっと選ばれたくらいで調子に乗らないでね?」
そんな言葉とともに恣羅は去っていった。
「花綵、恣羅に何もされなかった?」
どうやら深田には見えていなかったようだ。
「ううん、大丈夫」
先ほど去っていった少女を思い出す。
綺麗な黒色の髪にパッチリとした瞳。
まさに美少女。
「どうぞ、入って」
深田は何事もなかったかのように微笑んで言った。
先ほどの少女については触れないほうが良さそうだ。
そりゃもちろん、誰にだって秘密はある。
クラスメイトに隠したいことのひとつやふたつくらいある。
でも、と先ほどの深田の表情を思い出す。
怒っていたけど、でもすごく悲しそうだった。
その表情を見た瞬間、私の抱える問題なんてすごく小さなことに思えてきた。
私が人気者として振る舞っているのと同じように、深田も人気者だからこそ弱みを打ち明けられず、苦しんでいるのだろう。
人は光が当たれば当たるほど影が濃くなる。
さらに弱く、脆くなる。
なのに、弱みを見せてはならないと強がり、他の人が計り知れないような思いをたったひとりで抱え込む。
どうして人はこうなんだろう。
自分が快適に暮らしていく上で自分を強者と偽ることが大切なのかもしれない。
例え、それが自分をより弱くしようとも。
私も深田も、一言も発さない。
見慣れた深田の家が見えてくると、深田は険しい顔で立ち止まった。
その視線の先には、深田の家の前に一人佇む少女の姿。
「あっ、白澄!」
少女は深田を見るなり明るい表情で駆け寄ってきた。
「………誰、その女」
そして、私を見るなり不機嫌そうな声で呟いた。
「おい、何回言ったらわかる。もう来るなと言ったはずだ」
今までに聞いたことのないような、そんな低い声が耳をついた。
「深田、彼女?」
「違う。こんな女、彼女なんかじゃない。もう何度も来るなと言っている」
私が問いかけると深田は同じく低い声で答える。
「ちょっと、白澄、そんな女に気ぃ使う必要ないよ? 恣羅、彼女でしょ? 恣羅のほうがずっと、ずぅーっと可愛いじゃん」
少女―――恣羅は勝ち誇ったような顔で甘く訴える。
「帰れ、恣羅。もうお前との関係を続ける気はないと言っているだろう」
“もう”ということは、前は何かしらの関係があったのだろう。
「深田、私帰るよ?」
「だめ。今日は花綵のために………っ。とにかくお前は帰れ、恣羅」
「ねぇ、白澄! なんでそんな女なんかに構うのっ? 白澄の彼女は恣羅でしょ!?」
「花綵のこと“そんな女”呼ばわりする時点で論外。消えろ」
「深田、私はいいから」
「……今は、恣羅といたくない。俺は、花綵といたい」
今までに何度か深田の家に来たことがあるが、この恣羅という少女に会ったのは今日が初めてだった。
「………白澄がそこまで言うなら。また来る」
恣羅は突然、しおらしく言った。
帰るのかと動かした足は、私の方へと向かってきた。
すれ違いざまに足を踏まれる。
「いい? 白澄は恣羅のだから。今ちょっと選ばれたくらいで調子に乗らないでね?」
そんな言葉とともに恣羅は去っていった。
「花綵、恣羅に何もされなかった?」
どうやら深田には見えていなかったようだ。
「ううん、大丈夫」
先ほど去っていった少女を思い出す。
綺麗な黒色の髪にパッチリとした瞳。
まさに美少女。
「どうぞ、入って」
深田は何事もなかったかのように微笑んで言った。
先ほどの少女については触れないほうが良さそうだ。
そりゃもちろん、誰にだって秘密はある。
クラスメイトに隠したいことのひとつやふたつくらいある。
でも、と先ほどの深田の表情を思い出す。
怒っていたけど、でもすごく悲しそうだった。
その表情を見た瞬間、私の抱える問題なんてすごく小さなことに思えてきた。
私が人気者として振る舞っているのと同じように、深田も人気者だからこそ弱みを打ち明けられず、苦しんでいるのだろう。
人は光が当たれば当たるほど影が濃くなる。
さらに弱く、脆くなる。
なのに、弱みを見せてはならないと強がり、他の人が計り知れないような思いをたったひとりで抱え込む。
どうして人はこうなんだろう。
自分が快適に暮らしていく上で自分を強者と偽ることが大切なのかもしれない。
例え、それが自分をより弱くしようとも。