「ねぇ、花綵。昼休み進に呼び出されてたけど、告白でもされたの?」
放課後、深田と鉢合わせる前にちゃっちゃと帰ろうとしていた私の前に、本人が現れた。
「仮にそうだったとして、深田に何か関係あるの?」
「ある。きになるから」
「それは“関係”じゃない。ただの“興味”。教える義理はない」
特に、深田の前では昨日の話を口にしたくなかった。
恥ずかしいし、気まずいし、忘れてほしいから。
だから、私は口を噤んだ。
「本当は、楠木から聞いてるんでしょ? わざわざ私に確認する必要あるの?」
まず、そこなのだ。
楠木と深田は男子達の仲良しグループの中でも特に仲がよく、関係が強い。
「深田にならなんでも教えてくれるでしょ」
「進が教えてくれなかったから花綵んとこ来たんだけど」
深田は私を見て、少し強く言い放った。
「進が教えてくれないことなんて今までに一度もなかった」
それほど互いを信頼し合えているのはとても素晴らしいことで、どう足掻いても私にはできない芸当だ。
「まぁいいや。これは気にしないことにする」
深田は少し不満げな顔を見せたが、でもすぐに吹っ切った顔になった。
これは、長年の信頼あってこその判断なのだろう。
「そんなことより、昨日の話がしたいんだけど」
深田は周りに聞こえないように気遣ってか、私の耳元に口を寄せて言った。
いくつかの視線が私達に向くのがわかった。
「深田、距離近くない?」
珍しく距離を詰めてくる深田にそう言うと、深田は口角を上げた。
「気のせいだよ。いつもこれくらいでしょ」
「ちゃょ、深田………!」
深田はさらに距離を詰めてきた。
「で、なにがあったの?」
澄んだ青色の瞳に至近距離で見つめられて戸惑う。
「………飼っていた犬が、死んでしまって……」
「本当にそんなこと?」
いや、“そんなこと”って………
「本当です」
「じゃあ、なんで敬語なの?」
「敬語って………」
「花綵は、誤魔化すとき敬語になる」
「うっ………。そんなこと………」
「ある、でしょ。俺が花綵のことに気付いてないとでも思った?」
私は気まずさから目を逸らした。
「大丈夫。聞きはしないよ。だけど、花綵に寄り添わせて」
はたして、イケメンな人気者からのこんな言葉を聞いてときめかない女子がいるだろうか。
私は特に頷きもせず、だが深田の目を見る。
「うん。じゃあ、俺の家遊びおいで」
流れが少し理解できないが、それが深田なりの気遣いだろう。
その不器用な思いやりが心に沁みる。
「ありがと、………白澄」
深田は、私の言葉を聞くと嬉しそうに笑い、私の手を取った。
「あそこ、なんかあった?」
「ね、なんかすごい距離近いよね」
「やっとくっついたのかな」
そんなクラスメイトの声を聞きながら、私達は教室をあとにした。
“人気者”であることはいいことばかりではない。
それを踏まえて、ここからの話を読んでみて欲しい。
放課後、深田と鉢合わせる前にちゃっちゃと帰ろうとしていた私の前に、本人が現れた。
「仮にそうだったとして、深田に何か関係あるの?」
「ある。きになるから」
「それは“関係”じゃない。ただの“興味”。教える義理はない」
特に、深田の前では昨日の話を口にしたくなかった。
恥ずかしいし、気まずいし、忘れてほしいから。
だから、私は口を噤んだ。
「本当は、楠木から聞いてるんでしょ? わざわざ私に確認する必要あるの?」
まず、そこなのだ。
楠木と深田は男子達の仲良しグループの中でも特に仲がよく、関係が強い。
「深田にならなんでも教えてくれるでしょ」
「進が教えてくれなかったから花綵んとこ来たんだけど」
深田は私を見て、少し強く言い放った。
「進が教えてくれないことなんて今までに一度もなかった」
それほど互いを信頼し合えているのはとても素晴らしいことで、どう足掻いても私にはできない芸当だ。
「まぁいいや。これは気にしないことにする」
深田は少し不満げな顔を見せたが、でもすぐに吹っ切った顔になった。
これは、長年の信頼あってこその判断なのだろう。
「そんなことより、昨日の話がしたいんだけど」
深田は周りに聞こえないように気遣ってか、私の耳元に口を寄せて言った。
いくつかの視線が私達に向くのがわかった。
「深田、距離近くない?」
珍しく距離を詰めてくる深田にそう言うと、深田は口角を上げた。
「気のせいだよ。いつもこれくらいでしょ」
「ちゃょ、深田………!」
深田はさらに距離を詰めてきた。
「で、なにがあったの?」
澄んだ青色の瞳に至近距離で見つめられて戸惑う。
「………飼っていた犬が、死んでしまって……」
「本当にそんなこと?」
いや、“そんなこと”って………
「本当です」
「じゃあ、なんで敬語なの?」
「敬語って………」
「花綵は、誤魔化すとき敬語になる」
「うっ………。そんなこと………」
「ある、でしょ。俺が花綵のことに気付いてないとでも思った?」
私は気まずさから目を逸らした。
「大丈夫。聞きはしないよ。だけど、花綵に寄り添わせて」
はたして、イケメンな人気者からのこんな言葉を聞いてときめかない女子がいるだろうか。
私は特に頷きもせず、だが深田の目を見る。
「うん。じゃあ、俺の家遊びおいで」
流れが少し理解できないが、それが深田なりの気遣いだろう。
その不器用な思いやりが心に沁みる。
「ありがと、………白澄」
深田は、私の言葉を聞くと嬉しそうに笑い、私の手を取った。
「あそこ、なんかあった?」
「ね、なんかすごい距離近いよね」
「やっとくっついたのかな」
そんなクラスメイトの声を聞きながら、私達は教室をあとにした。
“人気者”であることはいいことばかりではない。
それを踏まえて、ここからの話を読んでみて欲しい。