次の日、朝起きると、珍しく母も父もいた。 

「あんなイケメンな彼氏がいたのね」
「あんな薄着で夜に外出するな。風邪を引く」

嬉しそうな母と心配そうな父。

「あの………なに?」

昨日の記憶は途中からない。
だから、何が起こったのか全くわからない。

「いや、昨日の夜にね、白澄(きよと)君って子がのんのこと抱えて来たのよ」
「『俺が夜遅くなんかに呼び出しちゃったから』って寝てるお前を連れてきてくれたんだ」
「しかも、お姫様抱っこで♡」

母がとても嬉しそうに、満面の笑みで言った。

白澄とは、深田の名前だ。


もしかしたら、私はとんでもないことをしてしまったのかもしれない。



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「のんちゃんおはよー!」
「のんのんおは〜」

教室に入ると、今日も多くの声が私を出迎える。

「花綵、おはよう」

その中には、当然深田もいた。
昨日のことなんてなかったかのように微笑む深田だが、私はそうもいられない。

「ふ、かだ…………」

私は、気まずさから目を逸らしてしまった。
昨晩働かなかった羞恥という感情が今さらやってきて、顔が熱くなる。

「おっとぉ? のんのん、白澄となんかあった?」

いつも深田と一緒にいる楠木が鋭く聞いてきた。

「いや………なんでも、ないよ。……おはよう、深田」

私が挨拶をすると、深田は微笑んで楠木との会話を再開した。

「のん、深田となんかあった?」

続いて声をかけてきたのは、友達の佐々木(ささき)美玖(みく)

「いや、何にもないよ。なんで?」

深田さえ目の前にいなければ、普段通りに接することができる。

ケロッとした様子の私を見て、美玖はその言葉を信じた。

あぁ、私も立派な役者だ。
ここまで自分を偽れるなんて。

もう、絶対に昨日みたいなことがあってはいけない。


深田だったから言いふらされなかったが、他の人だったならどうだっただろう。 


もし見られたら、今度こそ人気者でいられなくなる。

そんなの許されない。


人気者でない私に、価値なんてないから。