昔からそうだった。
父と母は根本的に合わない。

些細なことで言い合っては私を除け者にした。

それは、私の教育方針だったり、家族との接し方だったり。
すごく多かったけど、でも、一番の原因は私だった。

私のせいで言い合って、喧嘩をして。

“私のせいで”

そういう自責の念に駆られ、父と母が言い合っているのを聞くと怖くて泣いてばかりいた。


それは、例に洩れず今日もだった。

原因は何だったのだろう。
もう覚えていない。
くだらなさすぎて、でもそれはやっぱり私のせいで。

耐えられなくて、気の赴くまま家を飛び出してきてしまった。

夜遅くに半袖のTシャツに短パンという格好で飛び出してきてしまったため、少し肌寒い。
でも、だからと家に戻る勇気もない。

涙で濡れた頬を右手で拭う。

「あれ、花綵?」

背後から聞き馴染みのある声がかけられて、つい振り向いてしまった。

「っ、花綵、なんで泣いて………?」
「っ、ぁ………深、田」

見られてしまった。
一番見られてはいけない人に。

あぁ、終わった。

私がそう思う間に深田は段々近付いてくる。

すると突然、頭に温かい感覚が触れる。

それは、何も言わずに私の頭を優しく撫でる深田の手だった。

「泣けばいい。悪いことは何もない」

少ししてから発せられたその言葉は、私の一番弱いところに触れた。

私は羞恥も遠慮も忘れて、深田の胸に飛び込んだ。
久しぶりに、声をあげて泣いた。

深田は、ただ優しく見つめながら、ずっと頭を撫でて抱きしめ返してくれた。



その日、どうやって帰ったかなんて全く記憶にない。