朔が香袋を手に取って、親指の腹で撫でる。

「それがどうしたの?」

新しい紙ナプキンを一枚テーブルの上に広げて、朔は香袋の、小さい巾着の紐を解いた。

「ちょっと!何してるの!」

袋を逆さまにして、紙ナプキンの上にバラバラと檜のチップを撒く。

人差し指と親指を袋の中に入れて、朔は何かを取り出した。

真っ黒で薄いプレートのような物で、メモリーカードみたいに見える。

「何…それ…」

「盗聴器」

なんでも無いことみたいにサラッと言った朔の言葉に耳を疑う。

盗聴器…?

そんな物は高校生の私達には無縁な物で今、目の前にあるソレが本当に盗聴器かなんて判別できない。

「なんでそんな物…」

「貰ったんだ」

「誰に?」

「ネットで知り合った人。こういうのが趣味なんだってさ」

「犯罪だよ!?」

「そうかもね?コレさ、こんなに小さいのに優秀でさ。特定のスマホと同機できるんだ」

朔は自分のスマホを操作して、見たことのないアプリをタップした。

「それは…?」

「そいつが開発したんだって。凄いよなぁ。世の中にはさ、自分が想像もできないくらい、天才がゴロゴロ居るんだよ」

私は朔が散らばしたチップも盗聴器も、空っぽになった香袋も掻き集めてワンピースのポケットに突っ込んで、鞄と伝票を掴んだ。

「シイナ?」

「出よう!」

朔の返事を待たないで、さっさとレジでお会計を済ませて、お店を出た。

チリン、とドアの上に下げられた鈴が軽やかな音を立てた。

早歩きで突き進む私に、朔が「待って!」と呼びながらついてくる。

駅前の路地を抜けて歩き続けると、いつもバイト帰りに歩く住宅地やたんぼ道が見えてくる。

もう少し歩けば私と朔がいつも待ち合わせる神社の前。
その境内へと続く大階段の前で私は止まった。