土曜日。

あれから、平日にバイトに入ったのはあと一日だけだった。

渚先輩はいつもと同じ様子で笑いかけてくれたし、気まずさは少しも感じなかった。

今日は朔と映画に行く約束をした日。
学校の時と同じように朔がうちまで迎えに来てくれて、一緒に映画館に向かった。

映画館は駅前、バイト先のカフェの近くにある商業施設に入っている。

土曜日だから混んでるかもしれないけれど、絶対に観たい映画があるわけじゃない私達は、どれかのスクリーンは空いてたらいいね、なんて呑気に話していた。

十一時。
到着した商業施設は、平日とはまるで違う建物みたいに混み合っていて、あちこちで子どもの高い声が聞こえてくる。

映画館も上映開始を待って、いくつか並べられたベンチやテーブルで友達や恋人と喋ったり、ポップコーンを食べたりしている人が沢山居る。

映画のチケットを購入する券売機も五台もあるのに、どれも埋まっていた。

「映画、難しいかもね」

「うん。前売り券、買ってれば良かったな」

なんとなくそんなことを言い合いながら並んでいたら、券売機が私達の番になって、いくつかの作品名をタップしてみたけれど、どこも十分な空きは無かった。

なんとか二人分のシートが空いていても、すごく前のほうだったりして、これじゃあ首が痛くてゆっくり見れないねって二人の意見が一致して、私達はそっと券売機から離れた。