「あ、ご飯粒ついてる」
奏斗くんは私の顔に付いたご飯粒を手で取る。
夢中で食べてたから、気づかなかった。
幸せな時間。
ずっと望んでいた時間を今過ごせている気がする。
こんな時間が続けばいいな。
しばらくお箸で私の口元にご飯を運んでいた奏斗くんが、急に立ち上がった。
何だろう。
しばらくすると、スプーンを手にした奏斗くんが得意気な顔して戻ってきた。
「これで食べればいいんだ」
はい、と私にスプーンを渡した奏斗くんは、やっと食事にありつける、というような顔をして、焼き魚を食べ始めた。
初めてスプーンを手にした私は、本当に食べられるの?って思ったけど、スプーンでご飯を食べるのは思っていた以上に簡単だった。
魚の身は奏斗くんが、ほぐしてくれた。
だけど、奏斗くんが食べさせてくれたときのほうが、美味しさが倍以上だった気がする。
「ね、ミヤも奏斗くんに、あーんしてあげる」
「えっ、いいよ」
「何で?あーんってして食べさせてもらったほうが美味しいよ」
「いいって、自分で食べられるし!」
絶対に私が食べさせてあげたほうが美味しいのに、奏斗くんは必死に拒んでいる。
「絶対絶対絶対!ミヤが食べさせてあげたほうが美味しいから!!」
私の説得に根負けしたのか、奏斗くんはちょっと嫌そうに口をあける。