私がティファリオ家にやってきたのは、春の中期だった。
間もなく春の後期に入る。
その頃にもなれば、基礎的な祝石の装飾品に加工する仕事にも慣れ始めた。
指輪、腕輪、ネックレス、イヤリング、ピアスを作った。
装飾品作りの合間に淑女教育も同時進行なので、あっという間に時間が過ぎたように思う。
「王城から機材借りてきたよ」
「はい?」
と、春の後期に入ってすぐのその日、ソラウ様が石時計のようなものを持ってきた。
綺麗なサテン生地に包まれたそれを、ソラウ様は丁重にテーブルの中央に置く。
「ええと、これは?」
「魔力測定器。城と聖神殿にしか置いてないんだけどね、君の魔力を調べるから借りてきた」
「え!?」
「本当は春の前期にその年五歳になる貴族の子どもが検査を受ける。でも君、その検査も受けてないんだろう? だから仕方なく借りてきてあげたの、感謝してよね」
「え、えあ、は、はい、ありがとうございます……?」
なにか権力の気配を感じたんだけれど……普通はそんなに幼い頃に魔力を検査するものなんだ?
使い方は、時計の中央に指を乗せる。
乗せる指はどれでもいい。
「魔力量も調べるから、さっさと指乗せて」
「は、はい!」
頬を膨らませて言ってくるソラウ様に慌てて指示通り指を石時計の中心に乗せる。
ここからなにが起こるのだろうと思ったら、長針と短針が動き始めた。
なにもしてないのに動き始めるなんて、これも魔道具なのだろうか?
長針と短針が動きを止めると、ソラウ様が「ああ、やっぱりねぇ」と目を細める。
「ええと、もう指を話しても大丈夫でしょうか?」
「うん。もういいよ。で、結果だけどやっぱり君の魔力属性は『聖魔力』。聖女が持つ魔力を受け継いでいるね。まあ、今まで不通に祝石を装飾品にできていたからそうだろうとは思ったけれど」
「ッ……あ、あの、でも、別に聖魔力があれば聖女というわけではないんですよね?」
「は? そうだよ? なに? 自分が聖女になったつもり?」
「ち、違います~! なんですぐにそんな意地悪を言うんですか! まだ昨日二十二時に寝かしつけて朝七時に起こしたことを根に持っているんですか!? 私は旦那様にソラウ様の健康管理をお願いされているんだから仕方ないじゃないですか!」
「べっつにーーーー!!」
絶対根に持っている!
ただ健康的な時間に部屋に閉じ込めて、朝フライパンを耳の近くで叩いて起こしただけなのに!
食事は三食食べてくれるようになったけれど、問題は睡眠!
悪いのはどう考えてもすぐに徹夜しようとするソラウ様なのに!
顔が完全にいじけ散らした幼児!
「どうでもいいけど説明するからちゃんと聞いててよ。いい? ここに長針の先端が差しているのが聖魔力持ちっていう証になるの。で、短針の方を見て」
「あ……そういえば、この短針はなにを現しているんですか?」
「短針は他にも適性の属性があるかどうかを現しているの。動いている短針は三つ。つまり君は一番得意なのは聖属性で、聖魔力を持っている。他にも適性のある魔力が三種類ありますよってこと」
「私、聖魔力以外にも適性の魔力があるんですか!」
わあ、なんだかすごいなぁ。
ワクワクしなが短針を覗き込む。
青い印と、黄色い印と、緑の印を差している。
「水と土と風の属性魔力も持っているってこと」
「わあ! どんなことができるんですか?」
「水と土と風の初期魔法が使える。短針が差した属性は初期しか使えない。長針が差した属性だけ、中級から上級が使えるようになる」
へえ~、そうなんだ。
つまり、聖魔力以外の三つは……たいした魔法が使えないってことなのか。
でも魔法が使えるのは嬉しいな。
図書室で魔法に関する本を借りてみようかな?
「ちなみに聖女が聖女として国に認められるには『聖女の里』出身かそうでないかが決め手になる。まあ、女の方が聖魔力適性が高いから、聖魔力を持っているのは圧倒的に女性が多いんだけど――でも『聖女の里』出身じゃない聖魔力を持っている女性の魔力量は聖女の足元にも及ばないのが普通なんだよね。たとえば魔力そのものは平民も持っているけれど、平民の平均魔力量は20そこら。魔力属性を持つ者でも多くて30。貴族は訓練必須だから、平均40前後。でも歴代の『聖女の里』から派遣された聖女の平均魔力量は1000前後と言われている」
「えええええ!? け、桁が……!」
「そう、桁が違う。それが聖女が聖女として、各国に重用され尊敬される所以。女で聖魔力を持っているからって、聖女になれるわけがない。できることが違いすぎるからね」
それは本当にそう。
まさかそんなに魔力量に差があるなんて思わなかった。
みんなに尊敬される『聖女の里』から派遣される聖女様。
確かにそれなら納得だ。
「だいたい俺でも魔力量は500なんだよ」
「えええええええ!? け、桁が!?」
「当然でしょーが。俺を誰だと思ってるの。こう見えて【聖人】なんだけど?」
「そ、そうでした……」
あまりにも言動がお子様すぎて、最近忘れがちになっているけれどソラウ様ってものすごい肩書をいっぱいお持ちなんだった。
あまりにも言動がお子様すぎて本当に忘れていたけれど……!!
「ついでに俺のサブの魔力適性は土水火風雷氷の六属性なんだから」
「す、すごいんですか?」
「あったり前でしょ! 普通はサブ属性一つあればいい方なんだよ」
「そうなんですか!? あれ、じゃあ私って三つもあるから珍しいんですか?」
「は? 俺の方がすごいけど!?」
「あ、ハイ」
そこで張り合ってくるんだ……。
間もなく春の後期に入る。
その頃にもなれば、基礎的な祝石の装飾品に加工する仕事にも慣れ始めた。
指輪、腕輪、ネックレス、イヤリング、ピアスを作った。
装飾品作りの合間に淑女教育も同時進行なので、あっという間に時間が過ぎたように思う。
「王城から機材借りてきたよ」
「はい?」
と、春の後期に入ってすぐのその日、ソラウ様が石時計のようなものを持ってきた。
綺麗なサテン生地に包まれたそれを、ソラウ様は丁重にテーブルの中央に置く。
「ええと、これは?」
「魔力測定器。城と聖神殿にしか置いてないんだけどね、君の魔力を調べるから借りてきた」
「え!?」
「本当は春の前期にその年五歳になる貴族の子どもが検査を受ける。でも君、その検査も受けてないんだろう? だから仕方なく借りてきてあげたの、感謝してよね」
「え、えあ、は、はい、ありがとうございます……?」
なにか権力の気配を感じたんだけれど……普通はそんなに幼い頃に魔力を検査するものなんだ?
使い方は、時計の中央に指を乗せる。
乗せる指はどれでもいい。
「魔力量も調べるから、さっさと指乗せて」
「は、はい!」
頬を膨らませて言ってくるソラウ様に慌てて指示通り指を石時計の中心に乗せる。
ここからなにが起こるのだろうと思ったら、長針と短針が動き始めた。
なにもしてないのに動き始めるなんて、これも魔道具なのだろうか?
長針と短針が動きを止めると、ソラウ様が「ああ、やっぱりねぇ」と目を細める。
「ええと、もう指を話しても大丈夫でしょうか?」
「うん。もういいよ。で、結果だけどやっぱり君の魔力属性は『聖魔力』。聖女が持つ魔力を受け継いでいるね。まあ、今まで不通に祝石を装飾品にできていたからそうだろうとは思ったけれど」
「ッ……あ、あの、でも、別に聖魔力があれば聖女というわけではないんですよね?」
「は? そうだよ? なに? 自分が聖女になったつもり?」
「ち、違います~! なんですぐにそんな意地悪を言うんですか! まだ昨日二十二時に寝かしつけて朝七時に起こしたことを根に持っているんですか!? 私は旦那様にソラウ様の健康管理をお願いされているんだから仕方ないじゃないですか!」
「べっつにーーーー!!」
絶対根に持っている!
ただ健康的な時間に部屋に閉じ込めて、朝フライパンを耳の近くで叩いて起こしただけなのに!
食事は三食食べてくれるようになったけれど、問題は睡眠!
悪いのはどう考えてもすぐに徹夜しようとするソラウ様なのに!
顔が完全にいじけ散らした幼児!
「どうでもいいけど説明するからちゃんと聞いててよ。いい? ここに長針の先端が差しているのが聖魔力持ちっていう証になるの。で、短針の方を見て」
「あ……そういえば、この短針はなにを現しているんですか?」
「短針は他にも適性の属性があるかどうかを現しているの。動いている短針は三つ。つまり君は一番得意なのは聖属性で、聖魔力を持っている。他にも適性のある魔力が三種類ありますよってこと」
「私、聖魔力以外にも適性の魔力があるんですか!」
わあ、なんだかすごいなぁ。
ワクワクしなが短針を覗き込む。
青い印と、黄色い印と、緑の印を差している。
「水と土と風の属性魔力も持っているってこと」
「わあ! どんなことができるんですか?」
「水と土と風の初期魔法が使える。短針が差した属性は初期しか使えない。長針が差した属性だけ、中級から上級が使えるようになる」
へえ~、そうなんだ。
つまり、聖魔力以外の三つは……たいした魔法が使えないってことなのか。
でも魔法が使えるのは嬉しいな。
図書室で魔法に関する本を借りてみようかな?
「ちなみに聖女が聖女として国に認められるには『聖女の里』出身かそうでないかが決め手になる。まあ、女の方が聖魔力適性が高いから、聖魔力を持っているのは圧倒的に女性が多いんだけど――でも『聖女の里』出身じゃない聖魔力を持っている女性の魔力量は聖女の足元にも及ばないのが普通なんだよね。たとえば魔力そのものは平民も持っているけれど、平民の平均魔力量は20そこら。魔力属性を持つ者でも多くて30。貴族は訓練必須だから、平均40前後。でも歴代の『聖女の里』から派遣された聖女の平均魔力量は1000前後と言われている」
「えええええ!? け、桁が……!」
「そう、桁が違う。それが聖女が聖女として、各国に重用され尊敬される所以。女で聖魔力を持っているからって、聖女になれるわけがない。できることが違いすぎるからね」
それは本当にそう。
まさかそんなに魔力量に差があるなんて思わなかった。
みんなに尊敬される『聖女の里』から派遣される聖女様。
確かにそれなら納得だ。
「だいたい俺でも魔力量は500なんだよ」
「えええええええ!? け、桁が!?」
「当然でしょーが。俺を誰だと思ってるの。こう見えて【聖人】なんだけど?」
「そ、そうでした……」
あまりにも言動がお子様すぎて、最近忘れがちになっているけれどソラウ様ってものすごい肩書をいっぱいお持ちなんだった。
あまりにも言動がお子様すぎて本当に忘れていたけれど……!!
「ついでに俺のサブの魔力適性は土水火風雷氷の六属性なんだから」
「す、すごいんですか?」
「あったり前でしょ! 普通はサブ属性一つあればいい方なんだよ」
「そうなんですか!? あれ、じゃあ私って三つもあるから珍しいんですか?」
「は? 俺の方がすごいけど!?」
「あ、ハイ」
そこで張り合ってくるんだ……。