手渡されたのは工具と材料。
椅子に座るように促されて、椅子に座るとデザインの参考書を近くに置かれて開かれた。
私が渡されたのはオクタゴンカットのルビー。
指輪向きのカットなのね。
「まず金の細い丸線をニッパーでカットする。カットしたら切り口をやすりで平らに整えるんだ」
「は、はい」
ソラウ様の指示を受けながら言われた通りに丸線をカット。
長さは17mm。
これは13号の大きさ。
結構しっかりと決まっているんだな。
そんなふうに感心しながら、カットした丸線を持って別な作業室に連れていかれた。
「次は焼き鈍しという工程。火を使うからこっちでやって」
「ええと……焼き鈍しというのは……?」
「金属は叩くと固くなるの。円形に加工する時に砕けたりしないように温めて柔らかさを出す。危ないから火鼠の皮で作った手袋して」
「はい」
火炎の魔法で温めながら、丸線をリングの形に加工していく。
段々面白くなってきた。
切り口をぴったり合わせて、糸鋸で切れ目を入れ、銀ロウで切り口を潰してしまう。
わあ~、奇麗なリングができた~!
「ロウつけが終わったら酸性の水溶液に漬けて酸化被膜などを除去する。この工程が終わったら、芯金棒でサイズを確認する。ちゃんと13号の指輪サイズになっているか確認ね」
「はい」
確認が終わってから、最後に形を整える。
歪みをなくし、平な状態に形成したらリング完成!
「わあ……で、できました!」
「っていう感じで指輪の元になるリングはここにサイズ分けして入れてあるから、指輪を作る時はここからリングを選んで使うといいよ」
「えええ!?」
苦労して、二時間くらいかけて作ったリングを大きな引き出しを開けて指差すソラウ様。
中を覗いてみると、1号から30号まで丁寧にガラスの箱に入っている。
隣の引き出しには別のデザインのリング。
なんとも言えない表情のままソラウ様を見上げた。
「な……なんで作らせたんですか……?」
「作り方は知っておいた方が困らないと思って」
なるほど。
……偉い人の考えることはわからない案件ね!
「オーダーメイドを頼まれることがあるだろうから、金属の加工も覚えておいた方がいい。ちなみにこっちは腕輪で、こっちの棚にはイヤリング、ネックレスチェーンも何種類か入っている。ネックレスチェーンは工具で長さも調整できるから、今からやってみる?」
「うっ……で、では……やってみます」
適度な長さでカットしたチェーンの外れた金具部分に、ニッパーで留め具をつけえる作業。
ニッパーにも先端の細いものや小さいものを掴むのに特化したものがあるんだなぁ、と感心しながら簡単ながらも完成したネックレスチェーンを目許まで持ち上げて眺める。
歪みも少なくて、普通にこれだけでも使えそう。
これを私が作ったのか。
なんだかそう思ったら、指輪のリングと合わせて胸がソワソワとする。
「うん、まあベースのものを作るのは問題なさそうだな。イヤリングやピアス、腕輪の方も追々覚えてもらうとして――次は台座に祝石を取りつける、もしくは金具を取りつけるやり方」
「は、はい」
宝石の形に合せた台座を選んだり、接着剤でくっつけるもの、金具で挟んで固定するもの――など、意外と種類が多かった。
今まではジッと見たことがなかったけれど、宝石ってこういうふうに装飾品に取りつけられているんだ……知らなかったよ。
台座にもいろいろデザインがあって可愛らしい。
わあ、この薔薇を模した台座可愛いな。
こっちのリボンを模したものも可愛い。
「さっき話したが、祝石には石が本来持つパワーをふんわりとはいえ確実に人間が”これのおかげ”とわかる程度に効果を底上げしたものだ。けれど、宝石にはいくつものパワーが宿っている。それらをすべて底上げしてあるが、こうして装飾品に加工することで効果を限定させて、より高めることができる。たとえばさっきあげたルビーの持つパワーは『美容』『火属性』『勝負運』『健康』。これらを祝石にすることで、ふんわりと底上げされ、もっているだけれこれら四つの効果が上がる。だが、聖魔力を持つ細工師が装飾品に仕上げることでそれらどれか一つに特化した、魔道装飾具になるんだ」
「魔道具のようなもの、ですか?」
「そう。まあ、魔石を使った魔道具ほどの力はないけれど、装飾品として身に着けていることでたとえば火傷が早く治ったり、火の魔法の威力が上がったり、試合で集中力が上がったり……そのうちのどれかの効果がわかりやすい効果として現れる。女性ならネックレスにすることで、血色がよく見えて肌調子がよくなる。君のそのやや荒れた肌も一気に改善されると思うぞ」
「ふひ……!?」
頬をむに、と軽く摘ままれる。
ほんのり痛い。
「年頃の女の肌とは思えないざらざらな肌だな。なにを食ったらこんなに荒ネックレスにしろ、ネックレスに」
「は、はひ、ぃ、ぃ!」
ネックレスにします、ネックレスにします、と言って台座を選ぶ。
薔薇の台座、金具で挟むタイプを選んだ。
「こ、こちら、使わせていただいてもいいですか?」
「いいよ。好きなもの使いな。しばらくは祝石も練習でどれ使ってもいいよ。ちなみに効果と加工後の効果一覧はこれを参考にして」
「これは――」
手書きの本には、丁寧に宝石ごとの効果と、装飾品に加工した時の効果が書かれていた。
す、すごい。
「これは、ソラウ様が調べたのですか?」
「そう。[鑑定]も使えるから、成功か失敗もわかる」
「……やってみます」