もみじ狩りはだれもケガなく終わった。
喜ばしいことのはずなのに、私の気分は晴れない。ずっとモヤモヤしたままだ。
原因は、とっくにわかってる。
目を閉じれば、目蓋の裏に幌延さんの焦った顔が浮かびあがる。腰に触れる手が大きく骨ばっていて、ぐっと寄せられた身体はがっしりとたくましい。
記憶をよみがえらせるだけで、頭の芯のあたりがポーッとなってしまって、思考がぼんやりして上手く働かない。
……重症だ。
しかも、報われる可能性は0%以下。
私は閉じていた目を開けた。洗面台の鏡には、幌延亜純さんそっくりの女が映っている。今日のハイキングで疲れてしまったのか、よくよく見ればげっそりとしていた。
蝶子さんはすでに寝床に入ってしまった。一度眠ってしまえば、朝までぐっすりと横になっている人だ──そう幌延さんは教えてくれた。
当の幌延さんも寝入ってしまっている。私もさっさと準備をしてお風呂に入らないといけないのに、どうしても身体が動かなかった。
そっと、鏡の中の自分に触れてみる。今の私は幌延亜純さんではなく、前田有希子だ。この時間だけは本来の私に戻れる。
鏡の中の私は、私を嘲笑った。
なにを勘違いしているの。幌延さんが私を大事にしてくれるのは契約だからなのに。もしも私が幌延亜純さんに似てなかったら、声すらかけられなかった。私の気持ちなんて最初から問題じゃない。わかってたでしょう?