「今日は私が家事をするから、気分転換でもしたらって言ってみてもダメなんです。『特に行きたいところがない』って無表情に返されてしまって」
「無気力な感じに……」
「ええ、無理やり海外に連れていったこともあるんですが、姉と一緒に行った旅行を思い出させてしまって……」
うなだれてしまった幌延さんに、かける慰めなんてどう探しても見つからない。……たとえ見つけたと思っても、下手に声をかけるべきではないんだろう。
私は幌延さんの苦悩を見てきたわけじゃない。こうやって話を聞くだけで、蝶子さんの悲哀を外から想像するしかできない。
今の元気で陽気な蝶子さんが、無気力無表情な状態になってしまっていた……。それが、私が演技をしていることで一瞬でも元々の明るい性格に戻せた。
今は、それでよしとしたい。
「幌延さん、もっと亜純さんについて教えていただけませんか?」
私の言葉に、幌延さんは弾かれたように顔を上げた。
「姉については、もう覚えていることは全部お話ししましたが……」
「どんな細かいことでもいいんです、今夜の〝うどん〟みたいなことにならないようにしないと!」