「ハイキング、一緒に行ってくれるの……!?」
心配は杞憂に終わった。
蝶子さんは口元に両手をあて、目をキラキラうるうるさせて私を見ている。
「何年ぶりかしら……! ちょうどいいわ。純くんも誘って早く計画立てちゃいましょう!」
今度は飛びあがらんばかりに喜んでいる。ホッとした……と安心するにはまだ早い。これでは幌延さんの予定が狂ってしまいかねない。
蝶子さんに誘われたら、幌延さんはなにを差しおいてもハイキングに行くだろう。たとえ仕事でスケジュールがギッチギチだったとしても……。
それは避けねばならないのに、両手を頬にそえて計画を立てだした蝶子さんを見ているとなにも言えなくなってしまう。
「どこがいいかしら……? この季節だしやっぱりもみじ狩りよねぇ。ここから近場の山とか渓谷っていったら……」
「えーっと、あの、おばあちゃん……」
「お祭りがあるとことか、ライトアップされるとこも調べておかないと……」
ウキウキしながら心を鮮やかな紅葉へと飛ばす蝶子さん。
そこにどう口をはさもうか悩む私。
幌延さんがキッチンに顔を見せるまで、ずっとそうしていた……。