自分の力で、か……。
財閥令嬢として、不自由のない暮らしを約束されたも同然なのに、それを捨ててしまった亜純さん。
その考えは、人によっては贅沢だと文句をつけるかもしれない。持てる者の傲慢だと、冷笑する人だっているかもしれない。
それでも、私は亜純さんの考え方を眩しいと思う。勇気のある人だと思う。
自分の運命を、自分の手で切り開こうとする。その姿勢は、少しだけ祖母の姿を思い起こさせた。
「……周りの人を悲しませようとか、困らせようとか、そういうつもりじゃなかったの」
「ええ、ええ、わかってるわ」
しんみりした空気になってしまった。蝶子さんを元気づけるために契約したっていうのに、なんのためにウィッグまでつけて演技したの!
なにか明るい話題を、と思考をぐるぐる回してもダメだった。焦れば焦るほどなにも浮かんでこない。なにか、なにか……。
「2人とも、できたよ」
エプロン姿の幌延さんが姿を現した。
和やかな笑顔でお鍋を持つその人が、後光を放つ天使に見える。よかった、助かった……!
「久々ねぇ、純くんのすき焼き!」
蝶子さんがウキウキした声を上げた。私は幌延さんの顔をそっとうかがう。