『甘恋。』でも似たようなシーンがあった。
 恋に奥手な主人公に向かって、アイルくんが優しく手を取って囁くの。

 俺に甘やかされて、溺れてよって。

 藍良くんに溺れたら、どうなっちゃうんだろう――?


「ゆっくりでいいよ」


 藍良くんは優しく微笑む。


「でも、男の子って括りじゃなくて、僕のことを見てほしい。絶対紅ちゃんのこと、大切にするから」

「……っ」


 現実でもこんなに甘いなんて、知らない。

『甘恋。』の読みすぎで、都合のいい夢を見てるのかな?


「……藍良くん」

「うん?」

「私まだ、現実の恋ってわからないの。
もう少し待ってもらってもいいかな……?」


 これが本当の現実なら。
 多分きちんと向き合わなきゃいけない。

 でも私にはまだまだ準備が必要。


「もちろんだよ。いくらでも待ってる」


 こんな私なのに、藍良くんは嬉しそうに笑ってくれる。
 その笑顔がかわいくて、またキュンとした。