「……嬉しい」



新庄くんの声が、幸せの色を溶け込ませたように響いた。その声は優しい吐息に変わり、あたしの髪を揺らす。そうして、ゆっくり沁みてあたしの大切が増える。


あたたかい……。ぴったりと頬を寄せている胸元から伝う振動は、とくとくと逸るリズムを奏でて、どきどきと安心と、離れたくない甘さ。

小さく息をすれば、新庄くんの匂いで、もっと満たされた。



「俺の彼女になってくれる?」



その腕の中に顔を埋めたまま、小さく頷いた。



「やったぁ……」



もっとぎゅーっとされて、頭のてっぺんにすりっと寄せられる新庄くんの頬の感触がして。

緊張をほぐしたような、心底安心したような、気の抜けた新庄くんの呟きに、胸がきらめいて。



「彼女になってくれて、ありがと」

「あ、あたしのほうこそ……!」



ありがと、と言いたくて顔を上げた。

すぐ近くにいる新庄くんと目が合って。



「……大事にする」



夕陽に照らされた優しい目元。新庄くんの頬にさすオレンジ色は、夕焼けのせいばかりじゃないのかもしれない。

だって、あたしの頬もすごく熱いから……。


……恥ずかしい。

でも。

幸せ。


新庄くんが教えてくれた、新庄くんだけがあたしにくれる眩しい気持ち。


ふたりで見つめ合って。微笑み合って。

とくんとくん、と甘く鳴る鼓動に誘われるように、もっと近くに……。



「……」

「……」


…………んん?


閉じかけていた瞼の端。


なにかが……? こっちを見てる……?

ゆっくり斜め下へ向けると。



「ママー、この人たちギューしてチューしようとしてるー!」

「?!」

「こ、こらっ! 邪魔しちゃいけませんっ!」

「!!!!!」



目をくりくりさせた小さな男の子。その手を無理やり掴んで「ご、ごめんなさいね! 気にせず続けて!」去っていくお母さんらしき人。


続けて……? なにを……?


小首を傾げれば、新庄くんと目が合って。

その困ったよう表情を見て……、ふと我に返った。


続けてって、続けてって……! 

そうだ! ここは公道で、電柱の影で……!

あたし、いま、なんてことをしようと?!