このまま、みんなといつものように。前みたいに……。

そんなふうに目を逸らす俺を誘うような声が、右側から追いかけてくる。



「ねぇ、ねぇ、理斗くんって歌、上手なんでしょぉ?」



するりと腕に纏わる知らない熱。そして、加藤の囃し立てる声。



「わぁ! ハナ、すげぇグイグイいくね~!」

「だって、あたし、理斗くん狙いだもーん」

「マジかぁ~。ってか、知ってた!」

「ね、理斗くん。だから、もっとあたしと仲良くして?」



計算されつくしたような上目遣い。俺に巻き付いている腕に力が籠められる。ふわりと香る華やかな香り。

いままでなら、適当に返事して、適当に仲良くして、当たり障りないように。


でも。

……それじゃ、頑張って踏み出した彼女に見合う男になれない。



「……ごめん」



呟いて、その腕を解く。

見下ろすと、きょとんとしたハナと目が合った。そのとなりで、俺の態度に面食らったような加藤が目を見開いている。



「……俺、大事な子できたんだ」

「はっ?!」

「俺の片想いだけど、誰かを好きになる気持ち、ちゃんとわかったから……」

「はっ、理斗、マジで?!」

「え、理斗く、」

「だから、ごめん! ハナのくれる気持ちに応えられない」



ハナの目にみるみる涙が溜まっていく。

なにか気のきいた言葉を言うべきなのに。俺のそれは相手のためじゃなくて、自分のためで。誠意の欠片もなかったものだから。



「本当に、ごめん。でも、ありがとう……」



そう言って深々と頭を下げた。


そうだ、この気持ちを消す理由、閉じ込める理由。

それはどれも俺の問題で。


柏木さんが安達先輩を好きかもとか。

柏木さんの行きそうなところ思いつかないとか……。



「(そんなの柏木さんを諦める理由になんか、全然なんねぇだろ!)」



諦める理由を探すな。そんな半端な気持ちで柏木さんを見つめていたわけじゃない。好きになったわけじゃない。



「(見つかるまで、探す!)」



俺は加藤たちに背を向けて、また走り出した。