「(そんな都合よくいくわけないのに……)」


黙りこくった俺に首を傾げつつ友達が帰っていく。手を振る気力なくなって、礼の言葉さえ出てこない。


身体が動かなくて呆然としていると、ぽんっと肩を叩かれた。

振り向くと、いつもの人懐っこい顔をした加藤だ。



「おー! いたいた! 急に教室飛び出して、どしたよー?」

「ああ、……わりぃ」

「いや、別にいいけど……、ってなんでこんなところで、ぼーっとしてんの?」

「……ほんとだよな」

「?」



要領を得ない俺の返事を、加藤はさして気にする様子もなく、明るく言葉を続ける。



「なぁなぁ、これからクラスの女子と一緒にカラオケ行こうってなってさ。理斗も行くだろ?」

「……俺、今日は、」

「むりー、むりー、はい!行きましょう!」

「あ! 理斗くん! 一緒に行こうよ~」

「ほらほら、鞄持ってきてあげたよ!」

「いや、ちょっ、俺、いま、」

「理斗くんと一緒にいきたーい」

「よしっ! 理斗、連行~」



押し切られるようように、そのまま学校の外へ出た。加藤に肩を組まれ、引きずられるように足が勝手に動く。


こんなことしている場合じゃない。


そう思うのに……。


『めっちゃ仲良さそげだったなー』


さっきの言葉が頭の中で警報音のように鳴り響く。

金井たちと話すときさえ、まだ少し緊張しているような様子なのに。

安達先輩と話すときは、そんなふうに見えるんだ……。


それって、柏木さんの気持ちが安達先輩に向いてるってことじゃないか?

考えたくなかった答えに行き当たって、ずしりと胸が塞がった。


それに、柏木さんと安達先輩がどこへ行ったのかもわからない。


追いかけない理由を探すのは、簡単だ。

惨めな自分を見なくていいように思考を向かわせるのは、慣れているから。