階段を走り下りて、途中ぶつかった人に謝りながら、とにかく昇降口を目指す。


そこで間に合わなかったら、もう追いつけないかもしれない。さすがに学校外に出てしまえば、探すことは困難になる。


……だって俺は柏木さんの好きそうな場所なんて、思いつかない。


ただ、彼女がいつも俺のあとをつきまとってくれていたから。俺はそれに甘えて、ただ待っているだけだった。見守るなんて体のいい逃げ場所を自分で用意して、練習なんて口実に寄りかかって、自分から追いかけようとしなかった。



「(くそっ、情けなさすぎんだろ……!)」



息が上がって、汗が落ちる。早く見つけたくて気持ちが急く。

必死にたどり着いた昇降口で、彼女の姿を探すけれど見当たらない。



「あれー?理斗じゃん。そんな焦って、どうし、」

「柏木さん! 見なかった?!」

「へ?」

「柏木さん! 柏木希羽さん!!」



声をかけてきた友達の肩をひっつかんでぐいっと顔を寄せた。

明らかにビビらせているけれど、構っていられない。掴んだ肩をがくがく揺らせば、そういえば、と聞きたくて聞きたくなかったことを教えてくれた。



「さっき、2年の安達先輩と帰っていったけど」

「……え、」

「なぁ、あのふたりっていつの間にデキてたんだろ? めっちゃ仲良さそげだったなー」

「……そっか、」



……そっか。


もう一度、心の中でつぶやくと、それは俺の中の熱をあっという間に奪った。


……間に合わなかった。


追いつけなかった。

奇跡なんて起きないと知りながら、誰よりも奇跡を願っていたのは俺だから。


振り向いてくれるんじゃないかって。

行かないでいてくれるんじゃないかって。

俺を選んでくれるんじゃないかって。