堪えきれず声をかけようと思ったところで、チャイムが鳴って先生が教室に入ってきてしまったせいで、もやもやしながら放課後を待つ羽目になった。



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授業が終わって、すぐ柏木さんに声をかけようとしたのに。


……え、もう、いない?


いつもはゆっくり帰り支度をしているはずの柏木さんは、瞬時に消えていた。



「希羽ちゃん、はやー!」
「安達先輩と帰るの、楽しみだったのかな?!」
「あんなかっこよくて、いい人、ふるわけなくない?」
「あのふたりが付き合ったら、本当に最強カップルだよねー!」



女子たちの楽しそうな声が耳に挟まる。


……わかってる。

柏木さんには、安達先輩みたいな人が似合う。あの人なら、そのままの柏木さんを大事にするだろう。



……わかっているけど。

俺が、柏木さんを大事にしたい。

俺が、笑顔にしたい。

   ――――俺が、そばにいたい。


柏木さんが俺に望んでいることと、俺の柏木さんへの想いは混じり合わないだろうけれど。

なりふり構っていられなかった。



「お、おいっ! 理斗!」



驚いた加藤の声を背中で聞いて、俺は教室を飛び出した。


安達先輩のクラスへ走れば、こちらも帰った後だという。


考えるまでもなく、また身体が動く。今ならまだ、ふたりに追いつけるかもしれない。


俺に柏木さんを止める権利なんてない。

自分のこの気持ちを押し付けるなんて、したくない。


でも。


ふたりで並んで歩いているところなんて、見たくない。

柏木さんの視線の先が、俺じゃない誰かに独占されるのは耐えられない。


はぁはぁと切れた息が鼓膜の奥で響く。

追いかけたところで、きっと俺の思い通りになんてならない。


誰かに嫌われたり気まずくなったりすることが怖くて、その場しのぎの調子のいい言葉ばかり並べていた最低な俺だけれど。


それでも。

誤魔化さず、隠さずに。

カッコ悪くても、惨めでも。



「(……初めて好きになった人だから、ちゃんと伝えたいんだ)」



こんな自分、きみに会わなかったら知らなかった。


俺は柏木さんの向けてくれたまっすぐな気持ちに、少しでも見合う男になりたい。

たとえ、奇跡が起きなくても。

俺も柏木さんをまっすぐに見つめ返せる男でいたい。