本気、だろうな。安達さんてそういう人だ。

何度かそういう場面を部活帰りに遠くから見たことがあるけれど、真面目に誠心誠意の態度で受け止めながら断っていた。


俺みたいに、ズルいことをしない人だ。



「(……なにが、丁重に友達になろう、だよ)」



今まで散々振りまいていた雲よりも軽いセリフ。心のない言葉。上辺だけの謝罪。

どんなに白々しく、自分の立場だけを考えたことだったか。


……俺、すげぇどうしようもない人間だ。



『あたしは、新庄くんの101番目の友達になりたいです』

『あたしは、新庄くんみたいな人になりたいって思ったんです』



そんな憧れてもらえるような男じゃない。

柏木さんが俺に向けてくれた、真っ直ぐな気持ちに向き合えるような男じゃない。



でも。俺は……。



視線を柏木さんに戻した。

何かを考えるような顔をして、うんうんと頷きながら金井の話を聞いている姿。


俺に向かない視線。こぼれる笑みが他の誰かに向けられること。

このぎゅぅっ……、と胸の奥が締め付けられる感覚。

いままで俺の中になかった湧き上がる感情。


目を逸らしてしまいたいぐらい苦しくて死にそうなのに、実際に目を逸らせば、もっと苦しくて、本当に死んでしまうほどの焦がれる気持ち。



制服の上から胸元を力任せに抑えつけた。

握りしめたら少しは大人しくなるかと期待した鼓動は、もっと大きく脈打って呼吸が詰まりそうになった。



可愛くていつも見ていたい、触れたい、癒し、胸の真ん中が柏木さんへの愛しい思いで満たされるような、淡い色をした感情だけじゃない。



「(誰かを好きになるって、こういうことなんだ……)」



もう、友達なんかじゃ、全然足りねぇよ。