ちらり、女子たちとお弁当を食べる柏木さんを見れば、ちょっと緊張しているようではあるけれど、笑顔で会話をしている。


「(……もう、練習いらないかぁ)」


女子の輪の中で楽しそうにする柏木さんを邪魔する気にはなれないし、俺が欲しいのは友達ポジションではない。

近くにいて、同じ時間を過ごす口実はもうその威力を発揮しない代物になってしまった。


それに、俺が手に入れたいのは。

”友達”じゃない”恋人”の柏木希羽さんだから。

ただ好きだという気持ちだけで、彼女のとなりにいられる存在になりたい。


……でも、急ぎたくはないな。


柏木さんが俺のことを友達として、大事に想ってくれているのはわかっている。やっと、踏み出したばかりの彼女だから。俺の彼女を想う気持ちが、彼女の欲しかった時間を邪魔するようなことはしたくない。

だから、いまはまだこのままで、彼女のそばにいられるならいっか。


そんな悠長なことを考えていたある日。



「えー?! 安達先輩?!」



金井の浮きだった声が聞こえて、無意識のうちに視線を向けると、興奮気味の金井ときょとんとした柏木さんが話していた。



「今日、一緒に帰ろうって言われて……」

「安達先輩かぁ~! いいじゃん!」

「えみりちゃん、安達先輩知ってるのですか?」

「えっ、安達先輩知らない人いる? バスケ部のキャプテンで、優しくって、かっこよくて、人格者って有名人! 新庄くんと並ぶうちの学校のイケメンツートップだよ!」

「……そうなんですか?知りませんでした……」



あ、やばい、目が合いそう。

ふと柏木さんの視線が俺の方に向く気配がしたから、慌てて窓の外に視線を逸らす。


それにしても、安達先輩って……。

同じバスケ部だからわかる。キャプテンとしての大きい器、モテるけれど硬派、人を見る目、めちゃくちゃバスケ上手なのに鼻にかけるようなこともない。


……あんないい人、そうそういない。



「で、どうするの?!」

「……せっかく誘ってくれたので、」

「え! 一緒に帰るの?!」

「あ、それは、」

「安達先輩、間違いなく希羽ちゃんのこと好きじゃん!」

「好き……? え、どうしてですか?」

「一緒に帰りたいって、そういうことでしょ?! 絶対、いい雰囲気になるじゃん、んで、そのまま告白くるね~」

「どういうこと……、ですか?」

「え、マジで聞いてる? まぁ、希羽ちゃんってそのあたりのこと、疎そうだもんね……。あのさ、一緒に帰りたい=一緒にいたい=他の人といないで=好き、大好き!!ってことでしょ」

「………そう、でしたか」

「そうだよー! てか、あの硬派な安達先輩が女の子を誘ったって時点で、希羽ちゃんにかなり本気ってことじゃん!」



後頭部に突き刺さった声。抉るように食い込んでくる。