「希羽ちゃん―! お昼一緒に食べよー!」

「あ、金井さん! ……いいんですか?」

「もー! こういう時は”えみりー!一緒に食べよー!”だってー」

「ぅ、え、えみり、ちゃん!」

「そうそう」

「一緒に、た、食べよ!」



恥ずかしそうに真っ赤になった柏木さんを「かわいーっ!!」と金井が抱きしめる。

金井にぎゅうぎゅうされてはにかむ柏木さん。

その頬をほんの少し染めた姿は、もはやこの世をあまねく照らす天照大神よりも、眩く尊い存在である。


もう一度言おう、何度でも言おう、永遠に唱えよう。



「(柏木さん、かわ……)」
「可愛いすぎんだろ!! なんだあの笑顔!」



俺の言葉の続きを、となりにいた加藤が奪った。しかし、それをかっさらっていくのは、なにも加藤だけじゃない。


「いや~、破壊力すさまじ!」
「あんなふうに可愛く笑うんだー!」
「柏木さんの微笑み、プライスレス……」
「俺にも、その笑顔ください!」
「俺も友達になりたい!」


あの世にも稀な美しい氷華が解けて、こんなにあたたかくて愛らしい柏木さんが現れるなんて誰も想像しなかったに違いない。加藤がほわぁんとしたお花畑顔でいるのも理解できる。


……まぁ、俺は知ってたけどね?

それでも、免疫も抗体もできなくて、毎回蕩けそうになる。


柏木さんに友達ができたことは、俺も嬉しい。

あんなに頑張っていたんだ。柏木さんの望んでいた毎日がやっと始まって、柏木さんの笑顔が増えるのは俺もすげぇ幸せ。



だけどさ。


「(……他の男には、見せたくなかった)」



俺だけの柏木さんの笑顔だったのに……って、燻る気持ちは消しようもない。

はぁ、とため息をつきたいのをぐっと飲み込んだ。


柏木さんと金井を囲むように、何人かの女子が集まってお弁当を広げ始める。きゃっきゃと楽しそうだ。



「俺も、混ぜてもらおうかなー……」



柏木さんへ近づこうとする加藤の首元に腕をかけて「やめとけ」と掴まえれば「ぐえっ」と変な声が聞こえた。

それを無視してもっと腕に力を込めるのは、友達としてのなけなしの気遣いと、俺以外の男を柏木さんに近寄らせたくないというお門違いの独占欲。



「(柏木さんの中で俺って友達枠なんだよな……)」



『友達でいてくれますか』
『練習に付き合ってくれますか』


柏木さんの友達が、俺ひとりしかいなかった時はそれはとても特別なものだったけれど。いまではそれは取るに足らない立場でしかない。

目を見てまっすぐに伝えられた言葉は、痛いほど思い知らせる。