「新庄くん!」



廊下を歩く背中に呼びかけた。

足を止めて振り向いた彼に、駆け寄る。見上げると、ぬくもりをのせた声が鼓膜に沁みてきた。



「うまく話せてたじゃん」



ふわり、頭のてっぺんにあたたかいものが触れ、大きな手のひらがゆっくりと髪を撫でる。



「……よかった」



新庄くんがほっと息をついた。

その声からも、その吐息からも、溢れるあたたかさ。新庄くんが自分のことのように喜んでくれているのが伝わってくる。



「……新庄くんの、おかげ、です」



コンビニで助けてもらった日。

あたしと友達になってくれた日。

新庄くんは、あたしの話を笑わずに聞いてくれた。言葉の足らないあたしの気持ちを、新庄くんの言葉で補って、寄り添ってくれた。


きっと、あの時から、あたしは変われたの。



「俺はなにもしてないよ。柏木さんが頑張ったから」

「そ、そんなことないです!」

「頑張りたいって思って、頑張れる人って、いるようで、なかなかいないんだよ」

「……っ、」

「望んだ先に望んだ景色があるとは限らないから。自分自身に先回りして、頑張らない理由を見つけることばかり上手になる」

「新庄くん……」

「でも、柏木さんは違った」



もし、ほんとにあたしが頑張れたのなら。ちがったのなら。

そうしてくれたのは、新庄くんだ。

練習しよう、って言ってくれて、すごく嬉しかった。新庄くんがくれた言葉と時間が、あたしに踏み出す勇気をくれた。


ぷるぷる振った頭に、ぽんぽんとあやすようなリズム。もう一度、同じように触れて、離れていく。