「か、金井さんも、お好きなんですよね!」

「は?」

「ぺちゃんこになって、すっごく、かな、悲しそうなお顔してました!」

「……まぁ、それはそう、だけど」

「お気持ち察します!」



もう新庄くんに出会う前の自分には戻りたくない。

変わりたい。きっと、いまだ。失敗しちゃうかもしれないけれど。踏み出すなら、いまがいい。


そばにいてくれる新庄くんに見てほしい。

……あたしは、あたしのままで……。



必死になっていると、「ぷっ」と吹き出すような音が聞こえた。

さっきまで呆気にとられるように固まっていた金井さんが……、


「(……え、笑ってる……?)」


「あははっ。なに、その敬語。いらいないよー? てか、柏木さんってたまご蒸しパン、……食べるの?」



あまりに真剣なその声に、今度は新庄くんが声をあげて笑った。



「ははっ。なんだよ、それ」

「え、だって、柏木さんだよ?! あの柏木希羽だよ?! 蒸しパンとか知ってるの?!」

「……毎日食べたいくらい、大好きです」

「ま、毎日……?」

「2つは軽くいけます!ふかふかが一番ですけど、ぺちゃんこでもきっとたまご蒸しパンの永遠性は、失われないと思います!」



ピースサインの”2”をずいっと目の前に掲げて見せて、なにか考えるよりも早く言葉を繋いだ。

すると、一瞬だけ面食らったような顔をした金井さんだったけれど、すぐに口元を抑えてさらに「ぶぶっ」と声を出して笑った。



「なにー! 柏木さんって、面白い人だったの?」

「え、あの……」



どこがおもしろかったのかは、わからないけれど。くすくす笑う金井さんに心が温かくなって。

気が付くと、クラスメイトに囲まれるように話しかけられていた。


「やっぱりセブンのが好きなの?」
「はい、セブンも好きですけど、」
「えー、木村屋じゃね?」
「き、木村屋もしっとり、いいですよね!」
「中にチーズ入りあるの、知ってる?」
「そ、それは初耳ですっ!」


こんなに話しかけられるなんて初めてで、でもうれしくて、夢中で受け答えをした。

会話が一段落して、ふっと気が付くと、新庄くんがあたしのとなりからいなくなっていた。



「(あれ、どこに……?)」



視線を彷徨わせれば、ちょうど教室を出ていく新庄くんの後姿を見つけた。