「これじゃぁ、うまさ半減じゃんね?」



新庄くんがあたしを見る。目が合う。それは合図。

あたしに心の準備をさせてくれる、刹那の優しさ。



「……柏木さんも、そう思わない?」



視界の端っこにいる金井さんの目がさらに見開かれる。教室全体が時を止めたように静止して、けれど一斉に集まってくる目線は痛いぐらい。



「(……でも、怖くない)」


緊張するけれど、新庄くんがいてくれるから、今までと全然違う。

彼がたくさん寄り添ってくれたから……、今もそばにいてくれるから。



「っ、あ、あたしも、そう思いました!」

「そうそう、あのふかふかが、いいんだよねー?」

「はいっ!あ、あたしも好きなので、よく食べます!」

「俺もー」

「お、おいしいですよね!」



新庄くんが投げかけてくれる言葉を拾って、投げ返す。新庄くんは、それをまたあたしに返してくれる。

お昼休みに、ふたりで練習していたように。あたしたちだけの、あの時間をなぞるように。


今どきどきとする胸の音は、緊張というよりも。

この想いのはじまりは……。

答えをさがすように、よりいっそう新庄くんの瞳の奥を覗こうとすると。



「え、ちょっと!まって!」



金井さんが目を見開いてあたしを見ていた。驚くほど深い皺を眉間に寄せているから、どくりっと心臓が縮こまる。


ど、どうしよう。

あたし、また、うまくできなかったの……?


そう思えば、高揚していた気持ちが途端にひやりと熱を失くしていく。


「(また前みたいに、閉じ込めてひとりでいるほうがいいの……?)」


自分に問いかける。

……怖い。いままで散々見てきた光景がよみがえる。


俯きそうになって……。

でも、答えはもう決まっているんだ。


『もっと話したいって思う』


大切な言葉。あたしの中に灯る、そう言ってくれた新庄くんがいてくれるから。