「ぎゃー!最悪だ―!」



新庄くんといつものようにお弁当を食べて、一足先に教室へ戻ってくると、クラスメイトの金井さんが涙目になっていた。



「あたしのたまご蒸しパンがぁぁぁ~」
「うわ、ぺっちゃんこじゃん」
「ふわふわ感なしのそれ、存在意義皆無~」
「ちゃんと潰れないように鞄に入れておいたのに~」



金井さんの机の上で無残な姿をさらすたまご蒸しパンは、本当にガレットかと思うほど薄く引き伸ばされていた。



「(あれは、泣きたくなる……)」



たまご蒸しパンの最大の魅力は、なんといってもあのしっとりとしたふわふわ感なのだから。


あたしの頭の中に、新庄くんが分けてくれたたまご蒸しパンが浮かぶ。甘くって、ほんわりとしていて。特別においしかったあの味。


だから、もはや、たまご蒸しパンとは呼べないそれを目にして、あまりにも悲しくなってしまって。


「(うん、わかります! その気持ち、すっごくよくわかります!)」


新庄くんが教えてくれた。

好きなものを分かち合ったら、もっと好きになるのなら。

悲しい気持ちも分かち合えるなら、悲しさが和らぐんじゃないかと思って。



「……それ、悲しいですね」



気が付いたら、金井さんの机の脇に立って、話しかけていた。



「……え?」



金井さんの怪訝さを含んだ声と同時に、教室内がしんと静まり返る。

さっきまでのお昼休み特有のざわつきはどこかへ行ってしまって、海の底にいるかのように物音ひとつしない空間に変わっていた。